SONY SOBAX ICC-500 レポート


勤務先の購買部門を通りかかった時、とんでもないものを発見しました。
それは、ソニーの電卓・SOBAX・・・・なんて言われても、知らない人の方が多いですよね、きっと。
それでは、歴史的な背景から説明しましょう。
電卓が手のひらサイズ・カードサイズであるにも関わらず、未だに電卓(電子卓上計算機)と呼ばれるのは奇妙なものですが、発表当時の電子計算機は巨大で、事務机の上に置くことのできるサイズということで、敢えて「卓上」という呼称が使われました。
この電卓、電子機器業界でも有数の性能・価格競争が繰り広げられ、"電卓戦争"の名で歴史に刻まれています(これは後年、"ワープロ戦争"となって再現された)。
電卓戦争に関しては、これだけのテーマで1冊の本にできる程の内容ですので、簡略化して流れを説明します。
昭和30年代、当時はカシオがリレー式計算機で市場を独占しており、そこにシャープとソニーがお得意の半導体技術を使って電子式計算機(電卓)市場に殴り込みをかけました。
世界初の電卓発表は、発表会場手配の都合でシャープがソニーよりタッチの差で(1日違いで)先行しました(尤も、ソニーは発売が随分後になったので、シャープの発表が名実共に世界初だと思う)。
その後、あらゆるメーカーから電卓が発表され、そして価格競争に追従できずに大手メーカーですら脱落する有様。最終的に残ったのは、シャープ・キャノン・カシオだけと言われています。
最終的には撤退したものの、ソニーは初期の頃から電卓を開発しており、ユニークなコンセプトが好評だったようです。
そのソニーの電卓1号機が、1967年6月発売のICC-500(価格26万円)です。
以下、電卓専門サイトやソニーのヒストリーHPからの引用です。

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ソニーは高度な技術をもとに、高性能な高級電卓を中心に電卓の開発を行うが、電卓戦争がドロ沼化する中、技術的にも大して面白みがなくなったということで1973年5月、電卓分野から撤退した。ソニーが電卓市場にとどまった期間は6年にも満たないが、この短い期間にソニーはいくつかの優れた電卓を生み出した。

SOBAXとは、Solid State Abacus(またはAbax)=固体回路ソロバンのことで、ソロバンのように手軽に使え、しかも複雑な演算をスピーディにこなせる計算機という意味から付いた商品名だ。
 今日の電卓に活かされているオペレーティング・システムの数々は、このSOBAXに端を発していると言ってもよい。たとえば、これまで8けたあれば、何もない時でもディスプレイに000……と8個の0が出ているのを、使う数字以外の0を消すゼロ消去、フローティング・デシマル、四捨五入の方式の案出、パーセント表示、逆数をとるなど、考えつくあらゆる考案がなされたのだ。それゆえ、のちにはアメリカのスミソニアン博物館に収められるという快挙をなし遂げたのであった。
また、“1”を押して“プラス”を押し、“1”を押して“イコール”を押すと、答えの“2”が出るというように、演算のとおりの数式で入れれば答えが出るという、当時は全く考えられなかったオペレーティング・システムが開発された。それまでの計算機というのは、たとえば掛け算は足し算の繰り返しなので、2倍というのは2回足せばいいといった感じの、足し算機、引き算機に過ぎない。ところが、ソニーのやり方を標準化していけば、それまで筆算をやっていたのと同じ順序で簡単に計算ができることから、大変使い勝手が良くなる。
 ただ、この「ICC-500」は価格が26万円と高く、とてもソロバン代わりにはならない。家庭の主婦が、26万円もする計算機を使って家計簿をつけるというようなことは考えられない。そこで、オフィス・ユースあるいは設計・計算をやっている技術者を対象にしないと売れない。しかし、そうした人たちは、機械的計算機の計算手順に慣れていて、“学校で習う算術どおりの手順”に従って計算するという新しい方式に違和感があるということで、販売面では大きなジレンマを抱えた商品になってしまったのである。
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ICC-500全景です。
従来の電卓は各桁ごとに1・2・・・・・9・0と数字が並んでいたので、テンキー式になって随分使い勝手がよくなっています。
幻のSOBAXロゴ。
最初はSOny ABAXの略かと思っていました。
ちなみに、当時の電卓には、
 シャープ:コンペット(COMPET)
 キャノン:キャノーラ(Canola)
という商品名が付いていました。
ユニークなのは、小数点の位置をレバーで可変できることです。
レバーを動かすと、それに合わせて小数点位置も移動します。
右隅に、通常計算と四捨五入の切換えスイッチが見えます。
当時はまだLEDや液晶はなく、ニキシ管と呼ばれる電光管が使われていました。
1つのチューブの中に0から9までの数字が入っていて、必要な数字だけを点灯するものです。
機種銘板です。
当時のSONYロゴは今の2代前のもので、やや横長で細身です。
携帯電話とのサイズ比較。
今の技術では、これぐらい大きいサイズの電卓を作る方が難しいんではないか?(^^;




2005年7月20日

世界中に初期の電卓を専門に扱うサイトはいろいろありますが、最近、将来有望な電卓専門サイト「たかさんのルックアップ企画」がオープンし、そこのWeb Masterさんといろいろ情報交換して刺激を受けたこともあって、ICC-500のオーバーホールをすることにしました。
今のところ特に異常はないのですが、内部のゴミ・ホコリがすごいのでクリーニングしたいことと、将来分解修理する時に備えて予備知識を習得しておくのが目的です。
なお、内部構造は上記サイトのICC-510とほぼ同一なので、比較してみて下さい。

ICC-500はソニー初の電卓でありながら、非常によく考えて設計されており、筐体を取り外すのは底面の丸い銀色のビスを外すだけでOKです。
基本的に同じサイズのネジを使っているので、プラスドライバ1本で完全分解が可能です。
回路基板はスロットタイプなので抜き差しするだけで済みます。
電源部・回路部・キーボード部・表示部が整然と配置され、発売を遅らせてでも完成度を目指したソニーの姿勢がよく現れていると思います。


カバーを取り外した状態を後方から見たところです。電源ユニットを背負い式に配置してあります。
回路が完全にユニット化されているので、メンテナンス性は素晴らしいです。

ICC-500と後継機ICC-510の相違点は唯一DCジャックの有無だけです。
ICC-500には写真左下にあるDCジャックが装備されていました。
今と違って電力消費量が大きいので、バッテリー駆動でどれだけの時間使うことができたのか? 当時26万円もした電卓を持ち出すことがあったのか?といろいろ不思議に思うことはありますが・・・・。

電卓本体と電源ユニットは、金属のピンで固定されていました。
ネジ止めでも済むはずですが、わざわざワンタッチ式にするところがソニーらしい!?


回路基板部です。
全てスロット化されており、抜き差し容易です。
全部で5枚の基板と、一番下に磁歪遅延線回路ユニット(メモリー)が入ってます。

基板を全部抜き取ったところです。
まるで今のパソコンのような構造です。

基板全景です。
基板には全てアルファベット記号が割り振られており、これは一番下のD基板です。
基板から出ている配線が磁歪遅延線回路ユニットにつながってます。

G基板です。
L基板です。

T基板です。

W基板です。

磁歪遅延線回路ユニットです。
金属パック構造で、英語で「修理不可」「交換はソニーサービスセンターのみ」と書かれています。

内部はこんな様子になっています。
針金を巻いただけのような構造ですが、かなり繊細な仕組みのようです。


よく見ると、髪の毛と同じぐらいの電線をボビンに巻いて手で半田付けしてあります。

こちらはグルグル巻きになっている針金(?)につながっている極細配線です。
引っ張ればすぐ切れそうな細さです。


当時の主流表示デバイス・ニキシ管。
1950〜60年代のハイテクイメージそのものです。


キーボードユニットです。
誰かがコーヒーを飲ませてしまったらしく、コーヒーにホコリが付着してすごいことになってます。
しかし、キーの構造が特殊なので、多少の水分で壊れることはありません。


キーを裏側から見たところです。
たかがキー(スイッチ)なのに、普通よりかなり大きめのものを使っています。

キーを取り外したところ。
完全ではありませんが、準密閉構造です。
ストロークは1センチ近くあります。

キーの内部構造です。
何と、ガラス管にスイッチ接点が入っていて、接点の劣化や摩耗が構造上抑えられています。
ここまでこだわったスイッチを使うとは、ソニーの意気込みを感じます。

接点部の拡大写真です。
キーを押すと、左下の磁石が右に移動し、その磁気に反発して接点がつながる仕組みです。
リレー回路を手動式にしたような感じです。


取り敢えず片っ端から分解したところです。
水洗いできるものは丸洗いし、エアコンプレッサーで内部のホコリやホッチキス・クリップを吹き飛ばして、回路がショートしないようにクリーニングします。

本体上部に付いているハンドルの固定金具内側に日付が印字されています。
時期的に見て製造年月日に違いありません。
後継機ICC-510の発売が1969年(昭和44年)6月1日なので、ICC-500としては後期ロットだと思われます。


ちなみに、内部筐体に型番が印字されているのですが、世界中の電卓サイトを見ると、どうやら出荷先別にICC-500の末尾にJやWやEを付けていたらしい。
JがJapanのJであることは当然だとしても、WやEはWorld Wide・Western・Europe・Export・・・一体何の略だったのやら・・・・。