Nakamichi High-Com II


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R1.3
型番:High-Com II 定価:69800円 発売:1979年

● High-Com II の概要

カセットデッキ名門メーカー・ナカミチがこの世に送り出したNRシステムがHigh-Com IIです。
原型はドイツ・テレフンケン社の業務用NRシステム・テレコムC4-D方式(周波数4分割、圧縮比1.5、SN比30dB改善)で、それを民生用にアレンジしたものです。
High-Com IIがあるなら、元祖High-Comがあるのではないか?というと、実はHigh-Comはテレフンケン社がヨーロッパ市場で発売しています。
ではHigh-ComとHigh-Com IIとの違いは何かというと、High-Comをベースに、ナカミチが独自に日本市場で商品化したのがHigh-Com IIです。
どちらも基本は同じで、High-Com IIはHigh-Comの回路にオペアンプやフィルタ等を追加してノイズ改善効果を大きくしたものであり、最大の違いは入力信号を2つの周波数帯域に分割し、それぞれを圧縮伸張している点です。
2分割したことにより、High-Comの回路が2倍、付帯回路を含めるとほぼ3倍の部品が必要になったようです。
また、測定データより聴感特性を重視して設計したため、その音質に対する評価は高く、今でも根強い人気を誇ります。

● High-Com IIの仕様

周波数特性:20Hz〜20kHz(±1dB)
帯域分割:2(分割周波数は未公開、ただし5kHzという説をテレフンケン社エンジニアがインタビューで述べているのを見たことがある)
圧縮伸張比:2
NR効果:20〜25dB
歪み率:0.1%以下
サイズ:482(W)×82(H)×270(H) mm
消費電力:約10W
重量:約5kg


意外と知られていない、High-Com IIのロゴです。
元祖High-Comのロゴは、中心の II がありません。




High-Com IIのブロックダイヤグラム



入力信号は、可聴外周波数をカットするため22kHz LPFを通ります。
次にFM放送用の19kHz MPXフィルタ、レコード再生用の10Hzサブソニックフィルタが用意されています。
その後、信号は帯域によって2分割され、それぞれに圧縮・伸張動作が行われます。
これによりブリージングノイズの抑制と、高域から低域まで広い範囲で20〜25dBのノイズ改善を行っています。
また、カセットテープの信号飽和を考慮し、周波数やレベルによって圧縮・伸張特性を変化させているのも特徴です。


High-Com II のエンコード・デコード特性


High-Com II の特性測定例です。
High-Com IIではカタログ数値(静特性)より動特性に重点をおいた設計になっています。
従って測定データに大きな特徴は表れませんが、聴感上非常に優れた効果を発揮することで定評がありました。



トランジェント特性例(周波数:5kHz、レベル:-10dB)


こちらはHign-Com IIのカタログに掲載されていた周波数特性・ノイズ分析グラフです。




1980年6月のカタログ表紙です。
ハイコム2ユニットには前期型と後期型があります(型番と基本仕様は同一)。
後期型にはハイコムディスクモードが付加されています。
このカタログは後期型のようです。


頭脳部であるVCR(adresのVRAに相当)がテレフンケン社によって既にIC化されていたため、初代にも関わらず基板は小型で、部品点数も少ないです。
写真は、上が前期型、下が後期型です。
違いはほとんど認められません。
(後期型にHighCom ICがないのは、ICを抜いたためで、本当は4個入っています。)


ハイコムIC拡大写真です。
本来は1チャンネルに付き1個のICで動作しますが、High-ComIIでは低域と高域の帯域2分割を行っているため、1チャンネルに2個のICを使っています。


整然と並ぶツマミ類。
左から順に、モード・フィルター・Output・Rec Level(左右微調整用)・Masterボリューム、です。


メーターはブラック目盛り板を使った針式で、周囲全体から光を当てて照らす非常に見栄えのよい、そして見やすいメータです。
所有欲を満たす高級感あふれる仕上げは、さすがナカミチです。

背面パネルです。
ユニークなのは、キャリブレーションボリューム(録音エンコーダーと再生デコーダー出力調整)がピンジャックの横にあることです(ピンジャックの横にある黒いツマミ)。
一度レベルを合わせたら、滅多に可変しないから背面にあってもそれほど不便ではないのでしょうが・・・・。

外観で前期型と後期型の区別ができる、唯一の部分です。
写真上が前期型、下が後期型です。


メイン基板の基板番号です。
当たり前ですが、後期型は番号が上がってます。
AやDというのは、基板のマイナーバージョンかもしれません。
Dというのは、前期型4代目という意味でしょうか?


以前より不思議に思っていたのは、背面のシリアル番号が古い機種より新しい機種の方が番号が小さいことがあるという謎でした。
しかし基板を見てその謎は氷解しました。(次に続く)


上が前期型、下が後期型のシリアル番号です。
前期型の方が、後期型より番号が大きいです。
しかしシリアル番号の上にあるF101とF102がキーでした。
このF番号は基板に記載されているF番号と一致し、即ちシリアル銘板で同じ製品でも生産ロットの区別が付くようになっていたのでした。
今回の場合、上は前期ロット(F101)の5652番、下は後期ロット(F102)の5400番という意味です。

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